2017年06月29日

生じるかどうか


鬼めいた好奇心、そして納骨所を髣髴《ほうふつ》させるものをひそかに偏愛する気持へと、微妙に堕落したことがわかりはじめたときのことだった。ウェストの関心は、忌わしくも極悪非道なまでに、異常なものへの地獄めく倒錯した耽溺《たんでき》となり數碼通寬頻、しごく健全な者なら恐怖と嫌悪のあまり昏倒《こんとう》してしまうような、人為的につくられたばけものを、満悦して穏やかにながめるのだった。ウェストは青白いインテリの見かけを保ちながら、肉体の実験をおこなう、妥協を許さぬボードレール――無神経な納骨所のヘリオガバルス――になってしまったのである。
 ウェストはひるむことなく危険にむかい、動じることなく犯罪を犯した。わたしは思うのだが、クライマックスが訪れたのは、ウェストが死体の切断された部分の蘇生を実験することで、理性をもつ生命を蘇らせることができる点を証明して、新しい世界を征服し航空ようとしたときのことだった。通常の生理機能から分離した臓器の細胞や神経組織の独立した生命力の特性について、ウェストは奔放かつ独創的な考えをもっており、名状しがたい熱帯の爬虫類《はちゅうるい》の孵化《ふか》しかけた卵から得た、人為的に育てられ、死ぬことのない組織という形で、恐るべき予備的な結果を得ていた。ウェストがとりわけ解決したがっていた生物学上の問題が二つあった――第一はいくぶんかの意識や理性的な行動が脳なしに可能で、脊髄《せきずい》やさまざまな神経中枢から、第二は物質である細胞とは異なる何らかの類の霊妙でつかみがたい関係が、以前は単一の生きている生命体であったものから外科的に分離された部分に、もしかして存在しているかどうかということだった。こうした研究活動には殺されたばかりのおびただしい新鮮な死体が必要だった――だからこそハーバート・ウェス

トは大戦に従軍したのである。
 一九一五年三月末のある深夜に、サンテロアの前線背後の野戦病院で、陰惨な幻影のような名状しがたいことが発生した。わたしはいまですら、それが本当に、一時的な精神錯乱による魔的な夢以外のものだったのだろうといぶかしむほどだ。ウェストは納屋のような一時しのぎの建物の東の部屋に、私的な実験室をもっていたが、これは従来絶望的だった不具者の治療のために、新しい革命的な治療法を考案しているという申し出に基づいて割り当てられたものだった。ウェストはその実験室で屠殺者《とさつしゃ》さながらに、血みどろのものにかこまれて働いた――ウェストがある種のものをあつかったり分類したりする際のうかれ気分には、わたしはついに慣れること數碼通月費がなかった。ときにウェストは、兵士たちのために驚異的な外科手術を実際になしとげることがあったものの、
主たる喜びは公共に属するものでも博愛的なものでもなく、破滅した者たちの騒々しい声の只中でさえ異常に思える物音について、多くの釈明を要するものだった。こうした物音のなかには頻繁に発砲される拳銃の発射音があった――戦場では珍しいものではないが、病院では明らかに尋常ではないものだ。ウェスト医師の蘇生させた標本は、長く生きつづけさせたり、大勢の者に見せたりするためのものではなかったのである。ウェストは人間の組織のほかに、培養してすぐれた結果を得ていた爬虫類《はちゅうるい》の胚《はい》を大量に使っていた。臓器のない断片に生命を維持させるには人間のものよりもよく、それこそがわが友人のもっぱらの研究活動になっていた。実験室の暗い隅には、孵化《ふか》を促進させる風変わりなバーナーの上に、この爬虫類の細胞物質に満ちる蓋《ふた》のされた大桶《おおおけ》が置かれており、増殖して恐ろしくもふくれあがっていた。
 いま話にのぼっている夜には、見事な新しい標本が手に入ったのだった――かつてはたくましい肉体を誇り、鋭敏な神経系が保証される高い知性をもっていた男だった。その男はウェストの任官にあたって力をかした将校だったから、こうしてわたしたちの実験台になっているのは、いささか皮肉なことだった。さらにこの男は、かつてウェストのもとで、蘇生理論をある程度ひそかに学んだことがあった。サーの称号をもち、殊勲章の栄誉に輝くこのエ  


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2017年06月13日

いたわけではない


だった。午前三時頃にウェストの部屋からおこった悲鳴で家じゅうの者が目を覚まし、ドアを押し破ったところ、わたしたち二人が殴られ、ひっかかれ、衣服も引き裂かれた姿で、血にまみれたカーペットの上で意識を失い、ウェストの実験器具や壜《びん》の残骸があたりに散乱していたからだ。わたしたちを襲った者がどうなったかを告げるのは開いた窓一つだけで、恐ろしくも二階の窓から芝生にとびおりたにちがいないとしても、どうやってそんなまねをして無事にすんだのかと、多くの者が首をひねった。部屋のなかには見なれない衣服らしきものが残っていたが、ウェストは意識をとりもどすと、部屋に連れてきた男のものではなく、病原菌の感染経路を調べる細菌分析のために集めた標本だといった。そして大きな暖炉でできるだけ早く焼きすてるよう命令した。警察に対しては、ウエストもわたしも、部屋に連れてきた男の身元は知らないと言明した。場所もよくおぼえていない下町の酒場で出会い、意気投合した男だと、ウェストは神経を高ぶらせていった。いささか羽目をはずしてしまったのだと告げて、ウェストもわたしも乱暴な連れが捜索されることを望まなかった。
 おなじ夜、アーカムの第二の恐怖がはじまった――わたしにとっては疫病をもしのぐ恐怖である。クライスト・チャーチの墓地が恐ろしい殺人のおこなわれた現場で、筆舌につくしがたいばかりか、はたして人間のしわざかと疑問が生じるほどの無残なありさまで、夜警が引き裂かれて絶命したのだった。犠牲者は真夜中をかなりすぎた頃に生きていたのが目撃されている――夜明けとともに名状しがたい兇行が明らかになったのだ。近くの町のボルトンでサーカスを開いていた経営者が事情聴取されたが、野獣が檻《おり》から逃げだしたことはないと断言した。死体を発見した者たちは、血の跡が墓穴にまでつづき、柵《さく》のすぐ外のコンクリートの上に赤い血だまりがあることに気づいた。そのかすかな血の跡は林のほうにつづき、そこでふっつりととぎれていた。
 翌日の夜は悪魔たちがアーカムの屋根の上で跳梁して、尋常ならざる狂気が風のなかで吠え猛った。疫病に冒される街に呪いがしのびより、疫病よりも恐ろしいという者もいれば、悪疫の魔霊が体現したものだと囁《ささや》く者もいた。八軒の家が名状しがたいものに押しいられ、そのあとには赤い死が散乱した――ひそかにしのびこんだものいわぬ残虐な怪物によって、都合十七体の見分けもつかぬ惨殺死体が残されたのである。ごくわずかな者が闇のなかで怪物の姿をなかばとらえ、白い奇形の類人猿か人間に似た鬼のようだったといった。襲われた者の死体がすべて完全な形で残ってのは、ときとして怪物が腹をすかせていたからである。実際に殺されたのは十四名で、三つの死体は病魔に冒された家にあったものだから、既に生きてはいなかった。
 三日目の夜、激怒する捜索隊が警官にひきいられ、ミスカトニック大学のキャンパスに近いクレイン・ストリートの家で怪物をつかまえた。捜索隊は慎重に組織され、有志が電話番をすることで相互の連絡にぬかりはなく、大学地区にいる者が鎧戸《よろいど》をおろした窓をひっかく音がすると報告するや、速やかに捕縛の網が広げられたのである。誰もが警戒と用心をおこたらなかったため、犠牲者はわずか二名にとどまり、さしたる不祥事もなく捕縛がおこなえた。怪物は最後に弾丸によって倒されたのだが、これとても致命傷とはならず、興奮と嫌悪の声がわきおこるなか、ただちに地元の病院に収容された。
 怪物は人間だったのである。いやらしい目、沈黙する類人猿の見かけ、悪魔さながらの残忍性を備えているにもかかわらず、この点は確かだった。傷の手当をうけたあと、セフトンの精神病院に運びこまれ、そして詰物のされた独房の壁に頭をうちつ  


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2017年06月02日

前方には何か


マンをつかんでいて、テーブルのむこうには、ギルマンがいままで見たことのなかった姿があった――真っ黒な肌色をしているものの、黒色人種の特徴をまったくもたない、やせた長身の男で、髪や髭は一本もなく、何か厚手の黒い繊維からつくられNeo skin lab 騙た、これといった形のないローブだけを身につけていた。テーブルとベンチのために足ははっきり見えなかったが、男が位置を変えるたびに金属的な音がするので、靴をはいているにちがいなかった。何もしゃべらず、小さなととのった顔には表情一つうかんでいなかった。男はテーブルの上に開かれた巨大な本を差し示すばかりで、老婆がギルマンの右手に大きな灰色の羽ペンを押しこんだ。あらゆるものに気も狂わんばかりの烈しい恐怖がたれこめ、それが頂点に達したのは、毛むくじゃらの生物が夢を見ているギルマンの衣服を肩まで駆け登ったあと、左腕におりて、袖口《そでぐち》のすぐ下の手首を鋭くかんだときのことだった。この傷口から血がほとばしりでると、ギルマンは気を失ってしまった。
 ギルマンが二十二日の朝に目を覚ますと、左手首が痛み、袖口に血がこびりついて褐色になっていることがわかった。記憶はひどく混乱していたが、未知の空間に黒い男のいる情景が生なましくうかびあがった。眠っているあいだに鼠にかまれ、それが悍ましい夢のクライマックスになったにちがいなかった。ドアを開けてみると、廊下の床にまいた小麦粉はまったく乱れておらず、屋根裏の別の端に下宿している無骨な男の大きな足跡が残っているだけだった。してみれば、今度は夢中歩行をしたわけではない。しかし鼠に対して何らかの手をうたなければならなかった。ギルマンは鼠のことを家主に話そうと思った。そして傾斜する壁の基部にある穴を、ちょうどおなじ大きさのように見える蝋燭《ろうそく》をさしこんで、また塞いでみることにした。夢で聞いた恐ろしい音の余韻がまだ残っているかのように、ギルマンはひどい耳鳴りを感じた。
 ギルマンは風呂にはいって服を身につけると、菫色に照らされる空間での情景を目にしたあと、どんな夢を見たかを思いだそうとしたが、はっきりしたものは何一つ脳裡に思いうかばなかった。あの情景そのものも、ギルマンの想像力を激しく冒すようになった、頭上の鎖《とざ》された小屋裏と対応しているにちがいなかったが、その後の印象はおぼろで漠然としたものだった。ほかにもぼんやりした薄明の深淵、その彼方にあるさらに広大で黒ぐろとした深淵――定まった形態をとるものがまったく存在しない深淵――を暗示させるものがあった。ギルマンはそこへ、たえずつきまとう泡の集まりと小さな多面体によって連れていかれたが、その二つもギルマンと同様に、この窮極の黯黒《あんこく》の遙かな空虚のなかでは、ほとんど輝きを失ったひとすじの乳白色の靄《もや》になりはててしまっていた。別のもの――ときおり凝縮していいようもない形態らしきものをとる大きめの靄――があって、ギルマンは進路がまっすぐなものではなく、およそ考えられうる宇宙の物理学や数学には未知な法則にしたがう、何か霊妙な渦動の異界的な曲線と螺旋《らせん》に沿って進んでいるように思った。最後には、跳びはねる巨大な影、ばけものじみたなかば耳に聞こえる脈動、目に見えないフルートの奏でる、か細く単調な音色を思わせるものがあった――しかしそれだけのことだった。ギルマンは最後のものに関して、混沌《こんとん》の中心にある妙なものにとりまかれた黒い玉座から、時空のすべてを支配するという、白痴の実体アザトホースについて、『ネクロノミコン』で読んだことが基になっていると判断した。
 血を洗い流してみると、手首の傷はきわめて軽いものであることがわかったが、小さな穴が二つあいていて、ギルマンはその位置に当惑させられた。横たわっていたベッドスプレッドには一滴の血もついていない――肌と袖口についた血の量から考えると、きわめて妙なことだった。もしかして眠りながら部屋のなかを歩きまわり、椅子のどれかに坐っているか、普通ではない姿勢をとって休んでいるときに、鼠にか  


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