2016年09月26日

で突然停止した


「塹壕線を越えたらアルガー人を前にやればいい。フルラクの物資を積んだ荷車が早瀬に停めてある」
「二日かかる場所にですな」
「まったくどうしておまえはものごとを悲観的にしか見れないのだ」
「わたしはただ案じておるだけですよ、陛下」
「ならば、どこか別の場所でやってくれ」

 アルガーの諸氏族は撤退する軍の右側にまわり、かれら独特の小集団に別れ、川の上の丘陵を埋め尽くすナドラク軍への攻撃にむかった。ヘターはひと房の巻毛をうしろになびかせ、手にはサーベル、目には石のような非情さを浮かべて、軽快に馬を飛ばした。当初、ナドラク軍はかれらの攻撃を丘の上で待ち構えているかのように見えたが、驚いたことに川にむかっていっせいに斜面を下り始めた。
 怒濤のごとく押し寄せる大部隊のなかから、ナドラクの軍旗を囲む十人ばかりの一団が、前進するアルガーの諸氏族めざして駆け寄ってきた。なかの一人は短い棒に白い布切れをつけたものをふりまわしていた。一行はヘターの馬の鼻先から百ヤードほど離れた先。
「ローダー王に話がある」ナドラク人のひとりがかん高い声で呼ばわった。ひょろ長い痩せぎすな身体つきで、あばた面にまばらな髭を生やした男だったが、その頭には王冠がのっていた。
「これはいったい何のぺてんだ」ヘターは叫び返した。
「むろん、そうだとも。この大まぬけ」痩せた男は答えた。「だが今回の相手はおまえじゃない。すぐにローダー王に会わせてくれ」
「やつらから目を話さないでくれ」ヘターはナドラク軍の本隊を指さしながら首長に言った。ナドラク軍はいまや退路をふさぐ塹壕線にむかって押し寄せようとしていた。「わたしはこの狂人をローダーのところへ連れていく」かれは馬の向きを変えると、ナドラク戦士の一団を率いて、近づいてくる歩兵隊にむかった。
「ローダー!」王冠をかぶった痩せぎすな男はドラスニア国王に近づくなり金切り声をあげた。  


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2016年09月06日

角度で落ちて


だが後はどうなるんだ」
「何の後だ?」
「われわれがこれを飲んだ後さ。いったいどうなるのかね」
「たぶん、気分が悪くなるだろう――いつもそうなるんだ。だが回復したら一路ヤー?ナドラクを目指す。おれは相応の賞金をもらい、おまえさんはドロスタ?レク王賜豪醫生?タン王が何でそんなにまでして会いたがっていたかを知るというわけさ」かれはおもしろそうにシルクの方を見た。
「とりあえず、腰をおろして一杯やりたまえ。さしあたってもう逃げることはできんのだからな」
[#改ページ]
 ヤー?ナドラクはコルドゥー川を東西に分ける分岐点にある、城壁に囲まれた都市だった。森は首都の周囲約一リーグにもわたって、焼き払うというごく単純な方法で始末されていた。そのために、街への進入路は焼け焦げた立木の残骸や、育ち過ぎたイバラのはびこる荒れ地のあいだを通っていた。市内へ入るための城門は、見るからに頑丈で、上にタールが塗られていた。その上に載せられているのは、石で作られたトラクの仮面の複製だった。美しい、人間離れした冷酷な顔が喜運佳、城門を通る者すべてを見おろしていた。ガリオンはその下を通りながら身震いを禁じ得なかった。
 首都ナドラクの家々は、いちように高く、屋根は急ないた。建物の二階の窓には鎧戸がつけられ、そのほとんどはおろされていた。むきだしの木材の部分は、保護のためにタールが塗りたくられていた。その黒いしみのような斑点のおかげで、家はまるで病んでいるような印象を見る者に与えた。
 ヤー?ナドラクの狭い曲がりくねった通りにはどこか陰うつな、おびえにも似た空気が流れていた。住人たちは皆いちように目を伏せ、自分たちの目的に向かって足早に通り過ぎていった。これまでの田舎の地方と比べれば、首都の住人たちの衣服に革の占める割合は少なかった。だが、ここでもやはりほとんどの人々は黒を身につけ、ごくたまに青や黄などの明るい色が見られるだけだった。この習慣の唯一の例外は、マロリー人兵士たちのはおる赤い長衣だった。街のあらゆる場所で、玉石を敷いた通りを気ままにぶらつき、住民たちに乱暴な言葉を浴びせたり、仲間同士でなまりのきつい言葉を、声高にしゃべりあっているかれらの姿が見られた。  


Posted by のために曲を作ってください at 11:51Comments(0)健康