2017年05月08日
期待しておる
いきなり話しを振られた博士。
しかし特になんということもなくただ自然に、
「いや、ワシはこの呼び方気に入っておるよ」
『は、博士?!』
そう答えた。慌てたのはやはりサトミの方だった。
「金目当てで接してくる企業の連中がワシをおだててくるよりも何倍も心地よい呼び名じゃ」
『そんなことおっしゃっても………』
そうなのだ。
博士はいわばサトミ達AIの生みの親。
ゆえにそんな呼び方は許せないのかもしれない。
誰であっても自分の肉親を、変態呼ばわりされて良い気がするはずないしな。
「それに親しんでくれているからそう呼んでここに来てくれるのじゃろう。今日だってワシの体調を気遣って来てくれておる」
『そ、そうですが………』
あ、その言葉で思い出した。
「そうそう、博士。今からメシ作るから、キッチン借りてもいいよな?」
俺の言葉に博士はうなずき、
「ああ、思う存分使ってくれ。上手いメシ、ぞ」
そう言って、博士はそばにあった椅安利傳銷子に座り机に向かうのだった。
途端に静かになる部屋。
機械のウォンウォンという音だけが響く。
「さて、それじゃあキッチンに行くか」
我ながらなんと説明くさい台詞と思いながらも、そんなことを口にしていた。
静けさに耐えられなかった。
最近感じてなかったこの静かさが、なぜかあの時を思い出させる。
俺はいつも以上に饒舌になって色々独り言を言っていた。
静けさは怖い。
音がないのは耐えられない。
………そんな俺の心を知ってか知らずか、サトミはそれから料理が出来上がるまで一言もしゃべらなかった。
Posted by のために曲を作ってください at 12:41│Comments(0)
│婚禮