2017年06月02日

前方には何か

前方には何か
マンをつかんでいて、テーブルのむこうには、ギルマンがいままで見たことのなかった姿があった――真っ黒な肌色をしているものの、黒色人種の特徴をまったくもたない、やせた長身の男で、髪や髭は一本もなく、何か厚手の黒い繊維からつくられNeo skin lab 騙た、これといった形のないローブだけを身につけていた。テーブルとベンチのために足ははっきり見えなかったが、男が位置を変えるたびに金属的な音がするので、靴をはいているにちがいなかった。何もしゃべらず、小さなととのった顔には表情一つうかんでいなかった。男はテーブルの上に開かれた巨大な本を差し示すばかりで、老婆がギルマンの右手に大きな灰色の羽ペンを押しこんだ。あらゆるものに気も狂わんばかりの烈しい恐怖がたれこめ、それが頂点に達したのは、毛むくじゃらの生物が夢を見ているギルマンの衣服を肩まで駆け登ったあと、左腕におりて、袖口《そでぐち》のすぐ下の手首を鋭くかんだときのことだった。この傷口から血がほとばしりでると、ギルマンは気を失ってしまった。
 ギルマンが二十二日の朝に目を覚ますと、左手首が痛み、袖口に血がこびりついて褐色になっていることがわかった。記憶はひどく混乱していたが、未知の空間に黒い男のいる情景が生なましくうかびあがった。眠っているあいだに鼠にかまれ、それが悍ましい夢のクライマックスになったにちがいなかった。ドアを開けてみると、廊下の床にまいた小麦粉はまったく乱れておらず、屋根裏の別の端に下宿している無骨な男の大きな足跡が残っているだけだった。してみれば、今度は夢中歩行をしたわけではない。しかし鼠に対して何らかの手をうたなければならなかった。ギルマンは鼠のことを家主に話そうと思った。そして傾斜する壁の基部にある穴を、ちょうどおなじ大きさのように見える蝋燭《ろうそく》をさしこんで、また塞いでみることにした。夢で聞いた恐ろしい音の余韻がまだ残っているかのように、ギルマンはひどい耳鳴りを感じた。
 ギルマンは風呂にはいって服を身につけると、菫色に照らされる空間での情景を目にしたあと、どんな夢を見たかを思いだそうとしたが、はっきりしたものは何一つ脳裡に思いうかばなかった。あの情景そのものも、ギルマンの想像力を激しく冒すようになった、頭上の鎖《とざ》された小屋裏と対応しているにちがいなかったが、その後の印象はおぼろで漠然としたものだった。ほかにもぼんやりした薄明の深淵、その彼方にあるさらに広大で黒ぐろとした深淵――定まった形態をとるものがまったく存在しない深淵――を暗示させるものがあった。ギルマンはそこへ、たえずつきまとう泡の集まりと小さな多面体によって連れていかれたが、その二つもギルマンと同様に、この窮極の黯黒《あんこく》の遙かな空虚のなかでは、ほとんど輝きを失ったひとすじの乳白色の靄《もや》になりはててしまっていた。別のもの――ときおり凝縮していいようもない形態らしきものをとる大きめの靄――があって、ギルマンは進路がまっすぐなものではなく、およそ考えられうる宇宙の物理学や数学には未知な法則にしたがう、何か霊妙な渦動の異界的な曲線と螺旋《らせん》に沿って進んでいるように思った。最後には、跳びはねる巨大な影、ばけものじみたなかば耳に聞こえる脈動、目に見えないフルートの奏でる、か細く単調な音色を思わせるものがあった――しかしそれだけのことだった。ギルマンは最後のものに関して、混沌《こんとん》の中心にある妙なものにとりまかれた黒い玉座から、時空のすべてを支配するという、白痴の実体アザトホースについて、『ネクロノミコン』で読んだことが基になっていると判断した。
 血を洗い流してみると、手首の傷はきわめて軽いものであることがわかったが、小さな穴が二つあいていて、ギルマンはその位置に当惑させられた。横たわっていたベッドスプレッドには一滴の血もついていない――肌と袖口についた血の量から考えると、きわめて妙なことだった。もしかして眠りながら部屋のなかを歩きまわり、椅子のどれかに坐っているか、普通ではない姿勢をとって休んでいるときに、鼠にか

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Posted by のために曲を作ってください at 13:05│Comments(0)美容
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